第19章 謙信様の手紙
「…?お召替えされたんですね」
さっきまでは作務衣姿だったのに今は袈裟を着(つ)けている。
白い手袋をした手には漆塗りの文箱があった。
住職「はい。あなたを丁重にもてなすように言われておりますので」
(ん?)
「……えーと、どなたにですか??」
住職は微笑んだ。
住職「おそらくこの寺を再建された方からです」
「はっ!?」
あまりにも素っ頓狂な声をあげてしまったので、たつきがビクリと震えて目を覚まし、泣き出してしまった。
「ああ!ごめん、たつき。びっくりしたよね、よしよし」
あやしていると、ここが家ではないと気づいたみたいで泣き止んだ。
住職「そのお子さんの目は…」
「たつきは色違いの目なんです」
たつきは謙信様の血を色濃く受け継いで肌や髪などの色素が全体的に薄く、目の色も左右色違いだ。
片親が日本人の私であるということで(謙信様も日本人だけど)、珍しい配色に病院の先生達は驚いていた。
住職「先ほどの龍と同じですな。だから驚かれたんですね?」
「ええ、まぁ」
(どちらかというと謙信様と一緒で驚いたんだけど)
そんなことは言えず言葉を濁した。
「それでさっきの話はどういう事なんですか?」
『丁重にもてなすように言われている』とご住職は言っていた。
住職「まずはこちらを見て頂きたいのです」
ご住職が文箱を開けた。
中には文箱より二回り小さい包みが入っていた。
それは開けるのを禁ずるように、封がしてある。
その他1冊の本のようなものが入っていて、手袋を嵌めた住職がその本をとって私の前に置いた。
住職「これは再建当初どのような材料で、どのようなデザインでつくったか、材料をどこで仕入れたか、詳しく書かれたものです。
先ほどの龍の目の事もこれに書かれていたんです。
詳細な記録が残されているのに対して、ご本尊や池の龍をはじめ寺の数ある細工を手掛けた者達の名がひとつも残されていません。
理由はわかりませんが再建者を隠すためなのではと言われております」
住職が劣化してもろくなった紙を慎重にめくってみせてくれる。
墨でかかれた崩し字がたまらなく懐かしい。
『ここです』と住職が手を止めたのは本の終わりに差し掛かったところだった。
指でそこを示されたけれど…