第19章 謙信様の手紙
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お寺の中に通された。
少し時間が欲しいと言われ私達三人は通された場所でご住職を待つ事になった。
ベビーカーから降ろしてもたつきは熟睡していたので、座布団を二枚並べた上に寝かせてもらった。
「たつきはよく寝る子だね」
(…けど、この座布団。たつきが使うには申し訳ないくらい立派だな)
出された座布団は綿がたくさん詰められた分厚いもので、絹の布地に輝く絹糸で縫われた刺繍。
ご住職が法要の際に使う特別なもののような気がする。
たつきが寝ながらウンチしたらどうしよう…なんて嫌な予感が拭えない。
(それにここって…)
目の前にはご本尊とされている千手観音像が祀られていて、立派な佇まいだ。
(謙信様が建てたなら毘沙門天をご本尊にしそうなのに…)
「……」
(千手観音様は確かどんな人間にも救いの手をくださる慈悲深い観音様だよね)
救いの手。救済の手。
謙信様は飲まず食わずになった私を心配してご本尊を千手観音にしたのだろうか。
確かめる術はなく、やるせないため息を吐いた。
(でも普通、一般客をご本尊の前に通さないよね。
どうしたんだろう?)
手のひらに乗せた鈴がカランと鳴る。
これを見て住職の様子が変わった。その住職はかれこれ30分程姿を見せていない。
「駄目だよ、ゆり」
目を覚ましていたゆりはハイハイであちこちを探検中だ。
手に届くものはなんでも掴んで口にするから目が離せない。
今は大きな木魚をよだれがついた手で叩こうとしている。
「ゆり。めっ、よ!」
ゆり「んー!」
抱きあげて怒る真似をすると、ゆりが不満げに声を出し、直ぐにキャッキャッと声をあげて『おろして!』というように足をばたつかせる。
「これでたつきが起きたら、ここ、ぐちゃぐちゃにしそうで怖いなぁ」
不安げに辺りを見回した時、廊下を歩いてくる音がした。
(ご住職が戻ってきたんだ!)
ゆりを抱きなおして、たつきの隣に座った。
『お待たせしました』と声がして、ご住職が姿を現した。