第19章 謙信様の手紙
「………」
胸が苦しい。
500年前の簡素な東屋が重なって見える。
私にとってはこの間という感覚なのに現実には500年も経ってしまっているのだ。
謙信様が葉を採って器を作ってくれた木はなくなり、樫やクヌギの木など違う木々が立ち並んでいる。
ズラリと並んで植えられているアジサイも、あの時はなかった…。
「あれ?ここにあった川は………」
湧き出て溢れた水は石の道を通り傍の小川に流れ込んでいたはず。
その小川が……ない。
ご住職は不思議そうに首を傾げ、
「ここに来て40年程になりますが川はなかったですね」
と言った。
「そ、そうでしたか。ネットで写真を見た時に見間違えたのかもしれないです」
とっさに誤魔化す。
きっとあの小川は随分前に無くなったのだろう。
謙信様との思い出の一部が欠けてしまって知らず知らずに肩を落とした。
そうこうしている間に水場に着いた。
あの時と同じように水が静かに湧き出し、池の方へ流れて行く。
それを目で追っていると池の中央に石像が見えた。
ご住職に聞くと『水から上がり、地上で体を休める龍』を表現していると説明してくれた。
(あの時は池も石像もなかったのに…)
『龍』と聞いて急いで近づき正面から見た。
半身は水の中に沈んでいて、上半身は曲線を描き顎(あご)を地に付けて目を閉じている。
その眠る龍が、長い体で囲うようにして守っているものがあった。
(これって…)
心臓がドクンと音を立てた。