第2章 夜を忍ぶ
「?」
どうしたんだろうと首を傾げると、謙信様はこちらを振り返って右手の人差し指で天井下を指さした。
そして『音を立てるな』というように、鼻の前で指をたてる。
(下に誰か居るってこと?声も足音もしなかったけど…)
そう思った時に、トントントントン!という音が私の背後下から聞こえた。
(これって天井を下から突いてる!?)
その音はどんどん私が居る場所まで近づいてくる。
(音の違いで誰か隠れていないか確認してるんだ!)
謙信様を見ると既に梁の上に避難している。
私に『上がれ』と合図を送ってくれているけど、もう、もたもた梁によじ登る時間がない。
音は私の居る場所のすぐ後ろまで迫っている。
咄嗟に目の前の梁を掴み、助走なしで天井板を蹴り上げる。
鉄棒の逆上がりの要領で体を浮かせ、半回転したところで梁に身を預ける。
さかさまに見える天井裏と、自分の足だけをじっと見つめる。
トントントンという音は一定の速度で私がさっきまで居た場所を通り過ぎ、止まった。
秀吉「…気のせいか?」
聞き馴染んだ秀吉さんの声がしてドキリとする。
いつも世話を焼いてくれる秀吉さんの声を聴いて、罪悪感が湧いた。
秀吉さんにとって敵将である謙信様と、こうして天井裏に潜んで脱出しようとしているなんて…
「……」
梁にぶら下がりながら目をつむる。
(動揺しない、息を乱さない)
謙信様に言われたことを反芻する。少し心臓の音が早い…けど大丈夫。
目を開けて辺りを見回すと、謙信様は梁から降りている。
降りても良いと判断し、音を立てないように梁から降りた。
(びっくりした。秀吉さん、ごめんね)
落ち着かせるように息を吐いた。