第18章 あなたとの約束
そんな私を男の人は何も言わずに支えてくれた。
少しずつ飲み進めコップが空になった頃、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
「…ご馳走様でした。ありがとうございます」
コップから手を離して体を預けた。
今摂った水分が体中をもの凄い速さで駆け巡っている。
「このお寺について少しお聞かせくださいませんか?」
少しでもこの場所について聞きたくて目を閉じたまま問う。
男「もとは一向宗の寺で、長く朽ち果てた廃寺だったそうです。それが誰によってなのかは不明ですが500年程前、つまり戦国時代に再建されたそうです。
ご本尊は千手観音で作者不明ですが重要文化財に指定されております。ご本尊のみならず、この寺に納められている品々は不自然なほど作者が不明のものばかりなのです。
今お飲みになった水は寺の横手に湧き出ているもので、有事の際は地元の人々が頼りにしてきたものです。
この寺を再建したのは当時財力があった人物、つまり戦国武将の誰かではないかと言われていますが真実は謎のままです」
(謙信様…………?)
戦国武将と聞いて、トクンと胸が鳴った。
なんとなく…このお寺を建てたのは謙信様のような気がした。
(見たい。もっと)
目を開けたいのに開かない。
不規則な呼吸音と心音だけが嫌になるほど耳に響く。
意識が遠の……く…
光秀さんの言うとおりに息を…ちゃんと息をしなきゃ……
け、んし…ん…さ、ま……
今意識を手放したらこのまま死んでしまうかもしれない
やだ…生きなきゃ…あなたのた…めに……
この子も私も……生き抜いて、みせ…る…
??「こちらの女性ですか!?」
サイレンが直ぐ近くで止み、バタバタと走ってくる数名の足音。
ストレッチャーに乗せられた時の浮遊感。
(約束……しま…す…、謙信様……)
もう何も考えられず、感じず、私は意識を手放した。