第18章 あなたとの約束
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意識を取り戻したのは、とある大学病院だった。
日時を確認すると本能寺でタイムスリップから3日しか経っておらず、私を驚かせた。
私達の状態はとても酷くて、もう少しで母子ともに手遅れになるところだったという。
薄々そうじゃないかと思っていた通り、重度の妊娠悪阻と切迫流産と診断された。
栄養不良で胎児の成長も著(いちじる)しく遅れていた。
先生や看護師さんには、
『どうしてこんな状態になるまで病院にこなかったんですか?』
『ご主人は?』
と心配されたけれど、私は何も言わず首だけ振って過ごした。
ナースセンターのすぐ傍の病室に入り、24時間体制で点滴を受け続けること数週間。
出血と腹痛はおさまり、少しずつ口にできる食べ物が増えていった。
入院・出産手続きや母子手帳発行の手続き、入院中に必要になってくるもの。
やるべき事、必要な物がたくさんあったけれど、身寄りもない上に絶対安静だったので、代理人を立てたり、また、心配してくれる看護師さんの善意だったり、たくさん迷惑をかけながらベッドの上で過ごした。
今まで不足していた栄養と睡眠を取り戻すために、食べて飲んで、ひたすら寝た。
出産に耐えうる身体にするために、私にできたのはそれだけだった。
心細くなった時は謙信様の鈴の音を聞き、安土の皆からの贈り物を眺めて力を貰った。
定期検診で見られるお腹の中。
最初は豆粒のようにし見えなかった子が、徐々に形を成し、動く様子に言い様のない愛しさを感じた。
でも一緒に成長を喜んでくれるはずの愛しい人は居なくて、孤独と、切なさで涙がこぼれた。
そして月満ちた日、私は愛する謙信様の子を、世に産み落とした。