第18章 あなたとの約束
「うっ」
胸苦しくて目を閉じてしまえば花の色も何も見えなくなった。
荒い呼吸を繰り返す私を、ご住職らしき男の人が心配そうに見ている。
男「水は飲めますか?」
(飲めない)
首を振ろうとしたけれど男の人の言葉が続いた。
男「この寺には500年以上昔から湧いている水があり、一度も枯れたことがない湧き水です。
天災が起きても決して濁らず、何度戦火に包まれようと止まらず、たくさんの命を救った水なんですよ」
(なんか同じような話を聞いた事があるような…)
ふと愛しい人の声が思い出された。
『ここの水は幾度の天災を経ても決して濁らず、いつも豊富に湧き出している。
昔、大きな戦があり、そこの小川が血で汚れ、真っ赤に染まったそうだ。だが水源が違うのか綺麗なままだったと言われている。
大火事の際は民百姓がここへ集い、この水でたくさんの命を永らえたという…』
謙信様とお酒を一緒に飲んだ帰りに立ち寄った廃寺で…聞いた。
(ここはあのお寺なの?)
二人で語らったあの東屋はどうなっているのか見てみたいけれど直ぐに諦めた。
目を開いて奥をのぞき込むという行為さえできない。
「飲みます。少しで良いので飲ませてください」
飲めるか自信がなかったけれどお願いしてみた。
すぐにお水が運ばれてきて久しぶりに見る透明なガラスのコップにお水が入っている。
男「さあ、ゆっくり飲みなさい。きっとこの水はあなたも救ってくれる」
体を起こすのを手伝ってもらって躊躇したけれど思い切って水を口に含んだ。
すぐに戻してしまうかと思ったのに、なんの抵抗もなく水を飲みこめた。
「冷たくて美味しい…」
脱水症状になっていた体に水が染み込んでいくようだった。
誰ともなしに『生きろ』と言われているような気がして涙が出た。