第18章 あなたとの約束
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地面にお尻がついた感触がして目を開けた。
見上げてみるとワームホールの気配はなく、薄曇りの空が広がっている。
座り込んでいた場所は本能寺跡ではなかった。
どこなんだろうとゆっくり視線を巡らせる。
それとて眩暈と吐き気を誘発させるので一仕事だ。
「…」
そこは見覚えのない寺の境内だった。
とても古く、立派なお寺だ。
目に刺さるような真っ赤な生地の旗に白文字で『6月〇×日護摩法要』と書かれ、寺の犬走はコンクリートでできている。
(元の時代に戻ってきたみたいだけど…6月?)
そういえばスカートでも寒さを感じない。
それどころか蒸し暑さを感じる。
(時間がずれているのかもしれない)
私が生きていた『時』に戻ってきたのか不安になる。
もし、30年、40年のずれがあったら貯金もない、家もないということになる。
それに信長様を助けてしまったせいで私の知る現代ではないのかもしれない。
不安に苛まれるとそれに比例して気分が悪くなり肩を上下させた。
肩に掛けられていた信長様の外套がずり落ちた。
(…駄目だ。落ち込むのは後にしよう。今は命が最優先だ)
しかし一歩たりとも歩けないというのに周りには誰も居なかった。
「だ、誰か…」
助けを呼ぶ声は掠れてとても小さくて誰にも届くわけがなかった。
立ち上がろうとしたけれど地についた手はフニャフニャとして力が入らず、踏ん張ろうとした両足は綺麗に敷き詰められている玉砂利を乱してジャリジャリと音をたてるだけだ。
(自分の体ひとつ動かせないなんて…)
さっきからずっと呼吸が浅く、早い。
どんなに息をしても酸素が足りず苦しさで喘いだ。
「はっ、はっ、…ぅ」
胸のむかつきも酷くなり目をつむって耐えた。
こんな状態で一人になってしまった不安に胸が押しつぶされそうになった時、
『鼻で吸って口で吐け』
(そうだ、苦しいからって口で息してた)
光秀さんに言われた通りに呼吸を繰り返していると少しだけ楽になった。
(あ、出血してる)
最近は少量の出血で落ち着いていたのに無理して動いたせいで生理の時のようにドロリと血が出た。
妊娠がわかってからずっと続いている出血と腹痛。
それの意味すること…怖くて考えないようにしていた。