第17章 姫の手紙
謙信「……嘘だと……」
謙信の言葉は途切れたが、その場に居た誰もが謙信が『嘘だと言ってくれ』と言いたいのだと察した。
沈痛な面持ちで佐助が言った。
佐助「謙信様。手紙は2枚ありました。一枚は謙信様宛、二枚目は俺宛でした。
二枚目の内容がこちらです」
無気力にそれを受け取って謙信の目が佐助の文字を追った。
佐助君
『帰らない』と言ったにもかかわらず何の相談も無しに帰ってしまう事、本当に心苦しく思っています。ごめんなさい。
佐助君が気を付けるようにと言ってくれたことを私は本当のところで理解していなかったように思います。
日々体調が悪くなっていく一方でその事ばかりを考えています。
この世に佐助君を一人で残してしまうことがとても気がかりで心配です。
戦乱の火の粉が佐助君には降り注がないで欲しいと願っています。
無事に生きてくれることを祈って
舞
追伸
佐助君のことを秀吉さんに『同郷』だと紹介したことがありました。
安土で会ったなら問いただされるかもしれないけど、適当に話を合わせておいてください。
幸村「なあ、佐助。
『気を付けるように』って具体的になんて言ったんだ?」
信玄「国へ帰っただけなのに『この世に…残す』とは言い回しがおかしくないか?
天女はあの世にでも行ったのか?」
佐助はしばらく言い淀んでいたが3人の強い視線に観念したのか、
佐助「俺は……『この時代』の人に深入りしないように、と言いました」
信玄・幸村「は!?」
謙信「……『この時代』とはどういう意味だ?」
信玄や幸村でさえゾッとする気配を漂わせ、謙信がユラリと立ち上がった。