第2章 夜を忍ぶ
(わっ!?)
謙信様が屈みこんだと思ったら、米俵のように肩に担がれていた。
細身の体は筋肉質で、私の足を掴む腕も力強い。
ふらつくこともなく悠々と歩き、さっき降り立った場所まで来た。
(ここから私を担いだまま飛び上がるなんてできるの!?)
信じないわけじゃないけど、そんな芸当、現代人にできる人は居ないだろう。
一瞬不安がよぎり、知らず知らず体に力が入った。
謙信「力を抜け」
小さな声で謙信様が言った。
(こういう時は身を任せた方が謙信様もやりやすいんだよね、きっと)
ストレッチの時のように目を閉じて、息を長く吐く。
そうすると自然に力が抜けた。
謙信様の全身の筋肉がギュッと縮まり、次の瞬間にバネのように伸びた。
浮遊感はほんの少しで終わり、謙信様の足が地についたのを感じてから、目を開けた。
そこは真っ暗な天井裏で、下には自分の部屋が見える。
(嘘…ほんとに飛んじゃった。自分の部屋を上から見るって変な感じ…)
謙信様は天井板を元に戻すと、ついてこいと言うように視線を送ってきた。
(ここからは私も頑張らなきゃ)
衣擦れの音をさせずに進んでいく謙信様を、必死で追いかける。
真っ暗な上、謙信様の忍び装束は黒。
少しでも離れると見えなくなってしまう。
言われた通り、謙信様が足を置いたところに自分の足を降ろす。
天井裏は狭くて、身をかがめて進むしかない。
時にほふく前進のようにして進まねばならず、背中や腰の筋肉が疲労を訴えてくる。
頭の上には立派な梁が整然と通っていて、油断すると頭をぶつけそうだ。
時折天井下から洩れている部屋の明かりが、とてもありがたい。
(っ、あとどのくらい進むんだろう。体が痛くなってきた。
こんなことなら筋トレ、もっと頑張っておけばよかったよ)
薄着なのに全身汗ばんでいる。
謙信「…」
前を行く謙信様がぴたりと動きを止めた。