第17章 姫の手紙
見慣れない文字が紙いっぱいに書かれていた。
文は2枚あったが二枚とも謙信が読めない文字だ。
さらに文字の下に青、赤、黄色、緑、橙など、鮮やかな色で線が引かれている。
文に目を落としたまま固まった謙信の手元を信玄と幸村、佐助が覗き込んだ。
幸村「…これは南蛮の文字か?」
信玄「そのようだが綴り方が違う気がする」
佐助「これは…ローマ字?いや、おかしいな。なんだこれは」
佐助以外の人間はローマ字と聞いてもピンとこない。
謙信「佐助、ろおま字とはなんだ?」
謙信は文を佐助に手渡しながら聞いた。文を直ぐに読めないもどかしさに苛立っている。
佐助「ローマ字の詳しい成立ちは知りませんが俺の国では日本語をローマ字でこのように表記します」
佐助は懐から小さな紙を出し、お手製の鉛筆でそれに『あいうえお』と書き、その横に「A、I、U、E、O」と書いた。
アルファベットに馴染みのない3人は途端に難しい顔をした。
幸村「あいうえおってなんだ?あー……それで文にはなんて書いてあるんだ?」
早々に諦めた幸村が佐助に聞いた。
佐助「『あいうえお』は『いろはにほへと』と同じようなもので平仮名の配列だ。
この文はローマ字で書かれているけれどこのままだと意味が分からない。
この冒頭の部分。そのまま読むと『てけたんてしたんさたたまん』になる。
それに文字の下線……これが何を意味するのか…」
佐助が解読しようとブツブツ何か言っている。
幸村「わけわかんねーな」
幸村が足に肘をつけて頬杖をした。
信玄「佐助、ちょっと文を見せてもらっても良いか?」
佐助から信玄の手へ文が渡る。
文を眺める信玄の目は好奇心で輝いていた。
信玄「天女はこの文が誰かに渡っても読めないように暗号にしたんだな。
美しいだけじゃなく聡明な女だ。
宛先が謙信なら、謙信にしかわからない鍵があるはずだ……たとえばこれとこれ」
信玄は小さな絵に指をトン、トンと置いた。