第17章 姫の手紙
牧は頷いた。
牧「しばらく様子を見ていましたがやはり姫様の姿は確認できず、代わりに隠された文を見つけました」
牧は懐から文を取り出した。
宛名も差出人も書かれていない…真っ白だ。
幸「なんでこれが舞からの文だってわかるんだ?」
牧「…香りです。私は一度謙信様の文を姫様に届けたことがありました。
姫様が『もし私から文を送りたい時はどうしたら良いですか』と聞いてきたので、人目に触れない場所に姫様からだとわかる何かを文に忍ばせて置いてくださいと言いました。
舞様に投げ飛ばされた折にあの方の香りは覚えておりますので間違いないかと」
幸村「は?投げ飛ばされた!?あののん気そうなやつに?」
牧「その話は後です」
牧は文を謙信に差し出し謙信は神妙な顔でそれを受け取った。
牧「ここ一月程、城の警備が異常に強化されていましたが姫様が城を去ったとされる日から通常警備に戻りました。
信長は姫様の病が外に漏れるのを警戒していたのだと思われます」
信玄「謙信、早く文を開いたらどうだ」
謙信「ああ…。牧、下がって良い」
牧が一礼し広間を後にすると謙信は文に顔を近づけた。
フワリ
舞がつけていた香油の匂いが鼻をかすめた。
謙信「確かに舞のものだ」
舞と過ごした数日間、想いを繋げ抱いたあの日、共寝した夜、ずっと感じていた香りだった。
国元へ帰ったという事実を未だに信じられず、文を開いていく。
(俺を待っていると言ったではないか。何故だ?)
怒り、むなしさ、悲しみ。様々な感情が謙信に襲い掛かった。
かさり……
動揺を隠そうとも震える指先で手紙を開いた。
謙信「これは…なんだ?」
二色の瞳が戸惑いに揺れた。