第17章 姫の手紙
謙信「挨拶はよい。さっさと入って報告しろ」
謙信は襖を乱暴に開いて招き入れた。
控えていたのは牧だった。
牧「報告致します。安土の姫、舞様は5日前の雪の日、城を去り国元へ帰ったそうです」
謙信「…それは真か」
謙信の声が広間に低く響いた。
広間には謙信、佐助、信玄、幸村の4人だけだ。
常ならば1年以上はかかる内容を、舞のためにと謙信はふた月で成し遂げた。
それを知っているからこそ誰もが言葉を失った。
牧「はい。城に潜ませていた者から報告を受けました。
3日前、城勤めをしている全員に『姫は訳あって2日前に城を去った。城勤めの者達にも世話になったと礼を言っていた』という触れがあったそうです」
謙信「3日前?なぜもっと早く知らせに来なかった?」
二色の瞳が苛立ちで鋭く光り、牧は頭を深く下げ報告を続けた。
牧「安土を去った真相を調べなければ謙信様は納得してくださらないだろうと思いまして勝手ながら独断で調べを進めてまいりました。
城の一部の者にしか知らされていなかったそうですが、姫様は小正月を過ぎた頃より徐々に体調を崩され、睦月の終わりには臥せっていたそうです」
謙信「な…んだ…と?」
謙信は年の暮れに舞の元気な姿を見ている。
一か月足らずで臥せったことになる。
牧「城を去る頃には部屋から出る事もできないほど弱りはて、食べ物はおろか水も口にできず、やせ細ってしまっていたようです。
呼ばれた医者はどこが悪いのか突き止めることができなかった上に姫様自身が治療を拒んだとか…」
信玄「信長のやつ藪医者を呼んだのか?
天女もなんでまた治療を拒むなんてことを…」
信玄が痛まし気に顔を歪ませた。その隣に座っていた佐助が右手を上げて質問した。
佐助「牧さん、ちょっと良いですか?舞さんの部屋には行きましたか?」