第2章 夜を忍ぶ
「あのっ、佐助君の様子を見たいです。連れて行ってもらえませんか?」
謙信「な、に…?」
「その薬が効くかわからないし、インフルエンザだとしたら多少知識があるので何かしてあげられるかもしれないので…」
謙信「……」
いつも私を助けてくれた佐助君が酷い状態だというなら、今度は私が助けてあげたいと思った。
(謙信様、黙っちゃったな。迷惑だよね)
謙信様は私の言葉を受けて、じっと考えている。
そして直ぐに耳元に口を寄せて言った。
謙信「連れていく。仕度をしろ」
絶対断られると予想していたのに、意外にも返事はOKだった。
私は大きく頷いて、手早く仕度を始める。
流行り病の話を聞いてから作っておいた布マスクを出して身に着ける。
そして地下足袋に少し手を加えたものを履く。
(秋に佐助くんとハイキングに行こうと思って用意したんだけど、機会がなかったんだよね。まさかこんな時に役立つなんて…)
長い髪を一つにまとめて三つ編みにし、根元にグルグル巻きつけてお団子にした。
準備ができたので謙信様の元へ行くと、謙信様は私の上から下まで見て頷く。
(良いってことかな?)
なるべく声をださないようにしているので意思の疎通が難しい。
謙信「いいか、不測の事態があっても呼吸を乱さないようにしろ。
動揺というのは声に出なくても呼吸、気配に現れる。
心の臓の速さを聞き、脈の速さを確かめて心を保て」
(う、難しい。でも佐助君のためにがんばらないと)
謙信様の目をしっかり見つめて頷く。
真っ暗な部屋なのに、謙信様の瞳だけがきらめいて見える。
謙信「今夜は縄梯子を用意していない。俺がお前を担いで天井裏まで飛ぶ。
その後は俺のうしろについてこい。
俺が足を置いた場所以外の所に足を置くなよ。
もうひとつ、一切口を開くな。開いたら最後、天井裏に放っていく」
(こわっ!謙信様、容赦ない)
それでも足手纏いになるとわかっていて我儘をきいてくれたのだから、やっぱり優しい人なのかな。