第16章 武将くまたん
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光秀が御殿で舞の文を読んでいた同時刻、家康の部屋に三成が訪ねて来ていた。
三成を部屋に通したが、家康は城に戻ってきたばかりだったので荷物を片付ける手を止めなかった。
大方は家臣が整えてくれていたが薬関係の物は手つかずのままだ。
薬草を定位置の棚に収めていく。
家康「用事があるなら早く言って。
見てわかるように忙しくてお前にかまっている暇はない」
正座している三成をチラリと見るとその手には朗らかに笑うなりなりが鎮座している。
本人にそっくりの呆けた表情だ。
三成は真剣な顔でなりなりをじっと見つめた後、つと膝を進めてきた。
三成「家康様、お忙しいところ申し訳ありません。失礼致しますね」
三成は手に持っていたなりなりを文机に置いて立ち上がった。
家康「なんのつもり?なりなりなんか要らないんだけど」
翡翠の瞳は冷ややかに細められた。
三成は名残惜しげになりなりを見下ろした。
三成「私にとって『たった一人の人』は家康様です。
舞様から頂いた唯一の物ですが、家康様に持っていて欲しいと思うのです」
幾度となく『尊敬しております』と言われていたが、三成はいつもとは比べようもなく真剣な表情をしており、その本気が伺えた。
家康「嫌だと言ったらどうする?」
薬を仕舞う手を止め家康は三成を試すような質問をした。
三成は眉を八の字にして、さてと首を傾げた。
三成「受け取ってもらえないという想定をしておりませんでした」
家康は心の内でなんでだよ、と悪態をついた。
普段から三成を遠ざけようと手痛い対応をしているというのに、何故断られる可能性を考えないのだろう。
うちの参謀がこれで良いのかと頭痛がしてきた。