第16章 武将くまたん
(あの女、こうも安土の武将を虜にするとはたいしたものだ)
信長「舞は安土と上杉の間で板挟みとなり孕んだことを打ち明けられなかったのであろう。
腹の子は俺の子ということにして傍に居ろと言ったが、断りおった。
それだけはしてはいけないことだとな。どこまでも融通のきかない女だ」
光秀「あの馬鹿娘は人一倍がそういった事を嫌がりましたからね。
それに信長様の子と偽ったとしてもそれに上杉が気づけば大戦になると、ささやかな頭はそれを心配したことでしょう。
天下統一をすすめればいずれ上杉とはぶつかり合うのは必然だというのに」
信長「それ以前にあやつが強く望めば越後と結びつく道もあったであろう。まことに愚かな女だ」
『愚か』と言いながら、信長には呆れも怒りも浮かんでいなかった。
舞の代わりのように姫たんの頭を撫でている。
光秀「ええ。多少もめるでしょうが余計な戦…しかも大きな戦をしなくて済んだでしょうね」
舞に言ってやりたいことが山のようにあるが、伝える手段はない。
光秀は思いを断ち切るように息を吐くと、部下へ指示を出すために立ち上がった。
光秀「信長様、俺もこれで失礼致します。佐助の件はお任せください」
その腕にはしっかりとわるたんが抱かれている。
信長「光秀、これを読め。読んだら後で返せ」
信長の手から光秀のそれに舞の文が渡された。
光秀「?はい、承知いたしました」
文の内容は先ほど秀吉が読み上げたはず。
光秀は訝しく思いながら文を懐にしまい御殿へ戻った。