第16章 武将くまたん
信長「報告しろ」
その言葉を皮切りに先程までの和やかな空気はピリリとしたものへと変化した。
光秀「昨年の暮れ、流行り病にかかった舞の友人というのは越後の龍の忍、猿飛佐助だとわかりました」
信長の瞳がギラリと光った。
信長「その名前、以前秀吉から聞いたことがある。
舞が城下で佐助と名乗る男と茶屋に居て、同郷だと紹介されたとか…」
光秀「では佐助とやらもあの光の道を通って来たということでしょうか」
信長「本人の口から聞かせてもらおう。
光秀、早急に佐助を捕え安土に連れてこい」
光秀「はっ、直ちに」
その表情は何の感情も現さず涼しげなものだ。
光秀「舞の交友関係を調べましたが特別深い関係の者はおりませんでした。
腹の子は上杉謙信とみて間違いないと思われます。
昨年の暮れに城下で佐助とともに上杉らしき人物を見かけたという証言が取れました。精査したところ本人であると確定致しました。
相手が佐助なら舞は二人で国へ帰ったはず。
三成が聞いたところによるとあの道は二度と開かないと言っていたそうで、それが事実なら猶更です。
経緯は不明ですが昨年の秋、城下の外れで舞と上杉が茶屋で酒を供(きょう)していたという情報も得ております」
信長は手の中に収めた姫たんを弄びながら軽く頷いた。
信長「舞は佐助の看病のため長屋へ通い、そこに居た上杉に手をつけられたか」
信長の指は姫たんが持っている薄水色の布を掴んでいる。
光秀「あの様子では手籠めにされたのではなく、舞も同意の上でのことだったのでしょう。
あの女嫌いと名高い龍をどのようにして陥落させたのか、その手管を聞きたいものです」
口の端を持ち上げた光秀はいつもと何ら変わらない様子だが、信長の目にははっきりとした怒りが見えていた。