第16章 武将くまたん
政宗「そうだったな。呆れるくらい甘くて心優しいやつだった」
光秀「乱世において、あのような小娘は見たことがない。
まったく不思議な女だったな」
同意するように秀吉や家康も頷いた。
広間にしばしの沈黙が訪れたが信長によってそれは破られた。
信長「秀吉、最後の包みを開けろ。まあ、あらかた予想はつくがな」
広間に集まった武将にはそれぞれの武将くまたんが贈られ、籠の中には1つだけ桃色の包みが残っていた。
秀吉は感慨深げにそれを取り出した。
秀吉の手が結び目を解く様子を、集まった武将達は黙って見つめている。
解かれた布がハラリと床に落ち、最後のくまたんが現れた。
舞が身につけていた着物と同じ生地で作られたであろう、薄桃色の着物を着ている。
片耳に白い花をつけて、薄茶の目はまん丸。口元はニッコリと笑っている。
頬紅を塗ったように少しだけ上気した顔をしている。
片手には糸を通した針、もう片手には薄水色の布を持っていて着物を作っているところだとわかる。
付属品なのか布製の木桶(雑巾がかけてある)と箒が一緒に入っていた。
秀吉はそれを一通り皆に見せてから、信長の前へ並べる。
信長「……」
7体の人形がズラリと並んだ。
秀吉が文に目を落とす。
秀吉「……これは『姫たん』。のぶたんに拾われて突然安土にやってきたお転婆な姫。
縫物やお掃除が好き。お城の中をバタバタ走り回るので、ひでたんにしょっちゅう注意されている。
食べるの大好き、眠るの大好き、お酒大好き。でも一番大好きなのは安土の皆」
武将「「「……」」」
シンと静まり返った広間に秀吉の声だけが響く。
いつの間にか信長の鉄扇を動かす手も止まっていた。