第2章 夜を忍ぶ
(佐助君…)
いつも飄々とした佐助君が、高熱で倒れたと聞いて心配でたまらない。
(でも、それがどうして謙信様が私のところへ来ることになったんだろう?)
恋仲(誤解だけど)の私に知らせる、というだけでは安土城に忍びこんでくる理由としては弱い気がした。
敵の本拠地に忍び込む……見つかれば命がない。
謙信「佐助は熱で魘されながら、お前なら薬をもっているかもしれないと言っていた。
渋るあいつの口を割らせ、ここに忍んできた。
時が惜しい、お前は薬を持っているか?」
(そうか!佐助君は私が解熱鎮痛剤を持っているのを知ってたから…!)
私はこくんと頷くと、暗い部屋の中を手探りで歩いた。
月の光が全く差し込んでこないから、今夜は曇っているのかもしれない。
箪笥の角に足をぶつけそうになり、慌てて足をひっこめる。
変な物音を立てて誰かに聞かれてしまっては大変だ。特に今は謙信様が居るのだから。
現代から持ってきたバッグをそっと手に取り、謙信様の元へ戻った。
中から生理痛の薬を取り出して渡す。
ツルツルした質感の紙の箱に、謙信様が戸惑いの表情を浮かべたのが見えた。
「この箱に小さな丸い粒の薬が入っています。
1回の使用量は3個です。
熱がさがらなかったとしても二刻半は間をあけなければいけません」
謙信「わかった」
謙信様は薬を胸元に仕舞うと、行ってしまおうとする。
「ま、待ってください」
私は慌てて呼び止めた。
謙信「なんだ?」
謙信様は既に顔と髪色を隠していて、すぐにでも天井裏へと姿を消しそうだ。
私はお手製のスポーツウェアの布を握りしめながら、とんでもないお願いを口にした。