第16章 武将くまたん
『もう、光秀さんはなんでそんなに意地悪なんですか!
でも本当は心が温かい人だってわかってます。
光秀さんの奥様はきっと愛情いっぱいに愛されるんでしょうね』
羨ましいな、そう言って笑った舞の顔を光秀は思い出した。
妻は亡くなっていると教えた時には泣いていた…そういう感情豊かなところが好ましかった。
(俺の心が温かいなどと、そう表現するのはお前くらいのものだ)
己の義のため暗い道をひた走り、味方さえ煙に巻いて惑わせる。
故に信長以外の誰もが光秀の真意を知ることはない。
だから目の前のわるたんを目にして瞠目(どうもく)してしまった。
誰もが光秀の心は暗く閉ざされていると思っているというのに。
(舞。お前の曇りない瞳にはそう見えていたのか)
光秀は感情を隠した瞳で『わるたん』を見つめ、そっと信長の前へと戻した。
舞が去ってからというもの別れの時の儚さばかり思い出していたが『わるたん』を見ていると朗らかな笑顔が浮かんだ。
(どこまで俺の心を奪うつもりだ)
乱世において稀有ともいえる純粋な存在だったと光秀は目を閉じた。
信長「あやつは光秀の中に『はーと』を見たか」
信長は小さく笑うと『わるたん』を眺めてから次を促した。