第16章 武将くまたん
信長「この着物は俺の着物と同じ生地で作られているな。
ふん、このピストルと刀の中身は綿か…。触り心地も悪くない」
魔王と呼ばれて恐れられている男が、のぶたんの顔をギュッと押して弾力を確かめている姿はなんとも異様だ。
信長「それで秀吉、お前へのお贈り物はなんだ?」
秀吉「はっ、俺への贈り物はこれです」
籠の中から爽やかな緑色の包みを取り出し結び目を解いた。
中から秀吉そっくりの着物を着たくまの人形が出てきた。
たれ目で、両手で大きな茶せんを持っている。
左胸に『のぶたん命』と書かれた札を付けていて、懐から草履がはみ出ている。さらに片腕にはウリらしき子ザルがしがみついている。
秀吉はそれを信長に見せるように差し出し、文を開いた。
秀吉「これは『ひでたん』。のぶたんのことが大好きで、のぶたんのために努力を惜しまない。
面倒見が良くて、いつも周りの人を気にかけている。ポカポカ温かいお日様のよう。
いっぱい甘やかしてくれるので、姫たんは本当の兄のように慕っている。
姫たんを大事に想ってくれて、ありがとう」
読み終えて秀吉の胸が切なさで締め付けられた。
(俺は…妹じゃなく、女として慕っていたけどな)
妹扱いしていたが、いつの間にか一人の女として見つめていた。
『秀吉さん』そう呼んで笑いかけてくれる姿が愛おしかった。
ずっと安土に居てくれる、そう思っていたのに、あんな神がかった現象を目の当たりにして気持ちの整理がつかない。
最後に歌ってくれた声が忘れられない。
何もできなかった無念が心を冷え込ませた。
三成「まさに秀吉様のことですね。
ひでたんの衣装も細部までよく再現されています。
舞様は秀吉様のことをよく見ておいでだったんですね」
三成が寂しそうに呟いた。
舞が姿を消して以来、三成から笑顔が消えていた。
秀吉「ああ、そうだな。目を離すとすぐ無理をするから、いつも手伝ってやっていたからな…」
女中のようにクルクルとよく働き、全然姫らしくなかった。
『実は人見知りなの』と言っていたわりに誰に対しても分け隔てなく接し、仲良さげに仕事をしている姿は見ていて微笑ましかった。
信長「俺は父で、お前は兄か…。次は誰だ?」