第16章 武将くまたん
蓋を開けると、中には色とりどりの7つの風呂敷包みが見えた。
秀吉は懐から文を取り出し、籠の中から漆黒色の包みを取って信長の御前に進み寄った。
秀吉「信長様。この文には贈り物についての説明が書いてあります。先にお読みになりますか?」
信長「…よい。お前が読み上げろ」
秀吉「はっ!」
秀吉は風呂敷の結び目をそっと解いた。
姿を現したのは…
信長「これは以前あやつが作ったと言っていた『くまたん』ではないか?
飾って愛でるぬいぐるみと言っていたが…」
しかし以前見かけた時とは違い、くまたんは信長そっくりの着物と羽織を着ている。
目の色も信長に似せた色で作られていて、刀とピストルを腰に差していて、手には大きな金平糖を二つ持っている。
秀吉は言いにくそうにしながらも、文を見て説明を始めた。
秀吉「いいえ、これはくまたんではなく『のぶたん』だそうです」
信長「……」
秀吉の後ろで光秀と政宗がプッと笑うのが聞こえた。
信長「秀吉、貴様…」
信長の鋭い視線を受け止めて秀吉は焦って頭を下げる。
秀吉「信長様。決して俺が名付けたのではなく、舞です」
信長「…続けろ」
秀吉はコホンと咳をして『舞の気持ちが伝わるように文の通りに読みます』と前置きをした。
秀吉「『のぶたん』は偉くて強くて頭がいい!
とっても怖いけど、実はとっても優しい心の持ち主。
金平糖が大好きで姫たんに時々お裾分けしてくれる。
姫たんはこっそり『お父さんみたい』と思っている。
姫たんを拾って守ってくれて、ありがとう」
秀吉の後ろから、最早隠そうともしていない笑いが聞こえてくる。
政宗「おいおい、信長様に向かって『お父さん』はないだろう」
家康「信長様が『とっても優しい』なら、日の本の民、全員が底なしに優しいってことになるけど」
信長「姫たん、とはあいつのことか?あやつの目に俺はそう見えていたのか…」
凄みのある笑みを向けられ秀吉の額に汗が浮かぶ。
(舞の最後の願いとはいえ大変な役回りだ)
信長は『のぶたん』を手に取って眺めている。