第2章 夜を忍ぶ
思考が止まった。
わずかに動いている頭で『謙信様こそ常識の10歩先をいってるじゃない』なんて考えた。
「ここ……安土城……っ」
パクパクと口だけ動いて、言葉がうまく出てこない。
謙信「明かりを消す。静かにしていろよ」
囁かれた声にコクコクと頷く。
謙信様が私の手をとり明かりを消しにいく。
ジリっという音がして、細い煙が糸のようにあがり直ぐに消えた。
明かりのすぐ傍に敷いてあった布団の上に二人で座る。
(な、なんで、どうして?なに、この状況!!)
早鐘を打つ心臓の音が、謙信様にまで聞こえてしまいそうだ。
謙信様は私に体を寄せると、また耳元で囁く。
(耳に!謙信様の吐息がっ!)
得も言われぬ痺れが、耳から体へとジワジワ広がる。
でも謙信様の言葉を聞いて、私の浮ついた気分は吹っ飛んだ。
「舞が安土の姫だったというのは、今は不問にする。お前に協力してもらいたいことがある」
(えっ!?)
驚いて謙信様を見つめる。
暗闇で切れ長の瞳が光り、声をさらに低めて説明してくれた。
7日前に安土に入った謙信様と佐助君は、それぞれ有益な情報を仕入れて明日、越後に帰る予定だったという。
夕方、城下の飯屋で食事を終えたあたりから佐助君の様子がおかしくなり、隠れ家に着くなり倒れこんでしまったそうだ。
悪い物にあたったかと吐き出させようとしたが、佐助君は食あたりや毒を盛られたわけじゃなさそうだと自ら言い、発熱、悪寒、関節痛、筋肉痛を訴え、『おそらくインフルエンザです』と言い残して、眠ってしまったという。
寝ている間に熱が上がったため謙信様が薬を買いに出たけれど、流行り病のため薬屋に行っても手に入らなかった。
佐助君に水を飲ませようと声をかけても意識朦朧の状態になっていたそうだ。