第15章 雪原に立つ
(第三者目線)
秀吉「信長様、何が……起きたんでしょうか」
舞に駆け寄ろうとして止められた状態で秀吉が呟いた。
雷が落ちたと思ったら舞の姿が透けて、消えた。
黒い雲はあっという間に消えてなくなり澄み渡った冬の空が広がっている。
光秀「舞はしきりに天候を気にしていた。
あいつが国へ帰る『特殊な手段』というのはあの黒い雲だったのかもしれんな」
冬の冷たい風がヒュウと吹き、光秀の白い袴を揺らす。
怜悧な顔で舞が消えた雪原を見ている。
信長「……」
信長は黙ったまま舞が立っていた場所まで歩いた。
雷が落ちた場所は雪が吹き飛び、黒く焦げた地面がむき出しになっていた。
あとは舞が残したパンプスの足跡がいくつか残っているだけ。
秀吉「あいつは無事なのか?」
心配そうに周辺を見回し、空を見上げている秀吉に信長が声をかけた。
信長「無事だろうな。あやつは消える瞬間こちらを見て笑っておった」
赤い瞳が雪に埋もれた何かを見つけ、しゃがみ込んだ。
秀吉「舞の耳飾りですか?」
信長「そのようだな。これは俺が預かる。
秀吉、光秀。今しがた起きたことは誰にも言うな」
秀吉・光秀「はっ」
信長「用は済んだ。城に帰るぞ」
信長はイヤリングを懐に仕舞うと、歩き出した。
光秀「お館様、寒いのですか?」
繋いでいた馬を光秀が引いてくると、信長は何か考えているようだった。
顔が白い。
秀吉「っ!?大丈夫ですか?」
秀吉は舞を包んできた布を信長の肩にかけた。
信長「いや、寒くはない。体はな」
(なんだ…この心が冷えたような感覚は?)
感じたことのない冷たさに戸惑う。最後に舞に触れた両手を見た。
『信長様』
呑気な声がどこからか聞こえてくるようだった。
(俺は、あやつを……好いていたのか)
自覚すれば心の中に様々な感情が渦巻いた。
それを悟られぬよう一切の感情を閉じ込めて、信長は歩き出した。