第15章 雪原に立つ
「もう!そう言われたら何も言えないじゃないですか!」
いつも仲違いしている二人がこんな時に見せる連携に心くすぐられる。
「皆さん、ありがとうございます。もう大丈夫です。
ここに居ると危ないので離れてください」
信長様は私を静かに下ろした。
信長「危ないから離れろとはまたおかしなことを言う」
「巻き込んでしまうと大変なので」
ワームホールが開くからなんて言えない。スカートの裾をギュっと握りしめる。
信長「わかった。俺達は離れる。今度こそ最後だ、元気でな」
信長様は雪よけの外套を肩にかけてくれると、私の前髪を上げて額にキスを落とした。
「っ!」
信長「その外套は貸してやる。後で必ず返しに来い」
離れていく端正な顔立ちをポカンと見つめているうちに、
光秀「おや、お館様にならって俺からも別れの挨拶をしよう」
光秀さんが意地悪な笑みを浮かべると私の左手を静かにとり口づけた。
しかも反応を確かめるように視線をこちらに向けたまま
……琥珀の瞳が一段と艶めいた。
「ななななっ!何するんですか!秀吉さん、光秀さんになんとか言ってください」
秀吉「まあ、最後だから許してやってくれ。な?」
秀吉さんは気まずそうに目を逸らし私の右手をとって口づけた。
「~~~~!」
水を滴らせ、伏しめがちに口づけを落とす顔が色っぽくて、頭から湯気が出そう。
「も、もう!馬鹿っ!」
いつもは場をおさめてくれる秀吉さんにまで口づけされてしまい、口をついて出た言葉は『馬鹿』だった。
『ありがとう』とか『さようなら』とか、そういう言葉では伝えきれない想いがあったけれど、どんなに時間があったとしても上手く伝えることはできないような気がした。
三人は咎めることもなく笑い、最初に別れた場所まで戻っていった。
こんなに寒いのに雨でずぶぬれになっている。
「ありがとう。本当は皆大好きだよ。馬鹿だなんて言ってごめん」