第15章 雪原に立つ
「最後の最後まで迷惑をかけてすみませんでした。ここからは私一人で行きます。
政宗と家康、お城の皆さんにも…よろしくお伝えください。
お世話に…なりました」
感情が怒涛のように押し寄せてきて言葉が詰まった。
秀吉「舞、迷惑なんて全然思ってない。元気になれよ」
光秀「さっき言った事を忘れるな?息災でな」
信長「勤めを果たせ。精々養生しろ」
三人の暖かい言葉に涙がポロポロとこぼれる。
「ありがとうございます」
別れがたい気持ちに蓋をして三人に背をむける。
目の前にはだだっ広い雪原。
黒い雲を見上げて歩き始めた。
でもパンプスを履いている上に足に力が入らず、なかなか進まない。たいして進んでいないうちに息が荒くなってきた。
「けほっ、けほ!」
気持ちが悪くなって咳き込むと手ぬぐいにまた血がついた。
思わず膝をついてしまうと、そこも雪でぬれてしまって冷たい。
雪に濡れた足元を虚ろに見ていると上から冷たい雨が降り注いできた。
(雨だ…)
もう少し野原の中央まで行きたい。そう思ってびしょ濡れの体を奮いたたせようとした時、フワリと体が軽くなった。
「えっ!?の、信長様?」
私は信長様に横抱きにされていた。
信長「見ておれん。どこまで行けば良い?」
艶のある黒髪が雨に濡れて水を滴らせている。
「もう少し野原の中央まで行きたいんです」
信長「わかった」
信長様は私を抱えたまま野原の中央まで来た。
遠くに雷の音が聞こえる。
(だんだん雷が迫ってきてる…)
秀吉「こんな時期に雷か?」
光秀「奇妙だな。この辺一帯にだけ黒い雲がかかっている」
思いの外近くで声がしてびっくりする。
「な、なんで皆来ちゃうんですか!
さっきのとこまでで良いって言ったのに!」
二人は一瞬視線を交わすとしれっとした顔で、
秀吉・光秀「「信長様についてきただけだ」」
と言った。
それもあるだろうけど、私を心配して来てくれたのは明らかだ。