第15章 雪原に立つ
光秀「迎えの者の姿は見えないが馬から降りるか?」
光秀さんから声が掛かった。
本能寺跡でのことを思い出して馬を降りておくことにした。
(ワームホールって突然現れるもんね)
先に馬から降りた光秀さんに抱えられた。
空模様をみると何も兆候は見られない。
空ばかり見ているのを不審に思ったのか光秀さんが訊ねてきた。
光秀「そんなに天気が気になるのか?」
「え?さ、さっきは雪が降っていたのに突然晴れたなって思っていただけです」
光秀「そうか」
そんな会話をしている間に信長様と秀吉さんも馬から降りて、すぐ傍の木に馬をつないでいる。
光秀「国へ着くまでとにかく呼吸に意識を向けろ。
鼻で息を吸って口から吐け。口で息を吸うなよ」
珍しく光秀さんが真剣な顔をしている。
光秀「呼吸が乱れれば心の臓も乱れる。その逆もありだ。
いいか、苦しくとも落ち着いて呼吸しろ。息を吸えないなら吐け。
人の身体は息を吐ききれば勝手に息を吸うようにできている。
俺達はここからはついていけない、しっかりやれ」
本気で心配してアドバイスをくれる光秀さんに精一杯頷いた。
(口で息を吸わない。鼻で吸って口で吐く。
息を吸えない時は息を吐くようにする)
健康であれば普通にできる呼吸が今の私には難しい。
光秀さんの言葉を何度も自分に言い聞かせた。
秀吉「迎えはどっちの方から来るんだ?」
馬を繋ぎ終わった二人がこちらに歩み寄ってくる。
(それがわからないんだよね)
佐助君はこの野原に発生するって言っていたけれど、この雪原はサッカー場のように広い。
今居る場所からずっと離れたところに雷が落ちてしまえばタイムスリップできないかもしれない。
「わからないんだ。もう少し待ってみる」
空におかしな兆候がないか注意深く見ているしかない。
『その時』を待つ間、他愛もない会話をしながら過ごした。