第15章 雪原に立つ
(ダメダメダメ!そんなことしたら謙信様がっ)
自惚れでなければ謙信様は私を取り戻すために信長様と戦を起こすだろう。
それにどんなに誤魔化そうとも謙信様の子だといずれ明らかになる。
そうなればますます対立は深まるだろう…考えただけでゾッとする。
戦の火種をつくってはいけない。
それに私自身がそこを偽りたくない。
信長様のことは尊敬しているけど、そこは譲れない。
「だ、駄目です。それだけは絶対してはいけないんです。
私なんかにそこまでしていただかなくとも、お気持ち感謝いたします」
信長「貴様は俺の命を救った女だ。
貴様を救うのは俺の役目であろう」
さも当然と言った言い方と、憮然とした表情をしている。
(いつも験担ぎだ、拾い物だとおっしゃっていたのに、そう思ってくださっていたなんて)
嬉しい。
「あ、ありがとうございます信長様。そのお気持ちだけで充分です。嬉しいです」
滑り落ちた涙を信長様は拭ってくれた。
魔王と恐れられている人とは思えない、慈愛に満ちた眼差しに心打たれた。
信長「夜伽に応じないばかりか妻に迎えてやると言っておるのに断るとは、とんだ跳ねっ返り姫だ。だが貴様らしい。
好きな道を選べ。使っていた部屋はそのままにしておいてやる」
「はい」
清々しい気持ちで信長様を見つめ、返事をした。