第15章 雪原に立つ
「濃姫様も信長様の赤ちゃんにもお会いしたかったです」
濃姫様は産後の肥立ちが悪く、戦続きの安土城より国元へ帰った方が回復も早いだろうということで安土をずっと離れていた。
とても優しく綺麗な方だと聞いていたので、いつか会いたいと思っていたのに叶わなかった。
信長「濃は遠慮がすぎるところがあるが気立ての良い、美しい女だ。
貴様の事を耳にしたのか、会ってみたいと文で言っておった。
体を癒したら戻ってこい」
「それは光栄なお話です。戻ってこられたら…戻ってきます」
そう言うしかなかった。
信長「貴様の国は医学が進んでいると言ったな。帰ったらどのような治療を受けるのだ?」
「そうですね…おそらく足りない栄養や血を補い、吐き気を抑える薬を投与されると思います」
信長「『補う』とはどうするのだ。口からでは無理だろう?」
信長様の手首より少し上の辺りに触れる。
「この辺を通る血の管に、中が空洞になった針を刺して固定するんです。
その針と液体の薬が入った袋を管でつなぎ、直接血の管に薬を入れるんです。血を補う場合も同じです」
信長「薬や血を直接血の管に…。薬はともかく血はどこからくるのだ?」
「血は常日頃、健康な人の善意で分けてもらうんです。
血の中に悪いモノがないかきちんと調べてから安全に処理されて医療施設に保管されるんです」
信長「なるほどな。それで貴様のように血が必要な人間がそれを使うのか」
「ええ、そうです。体に触れるものは針、管、薬、薬を入れる袋まで全て清潔に保たれていて、体の中に悪いモノが一切入らないようにしてあります」
信長「直接体に入れるゆえ、即効性はあるが汚(けが)れたモノが入るとまずいということか」
「ふふ、信長様はやっぱり頭がとても良い方ですね。
初めて耳にする知識をすぐに理解してしまうんですから」
信長「ふん、俺を誰だと思っている」
前を見据えて足だけで馬を操る信長様の顔は、ため息が出る程カッコイイ。
(教科書で見た信長様達の絵と全然違う。忘れないようにいっぱい見ておこう)
信長様のおかげで気分が大分落ち着いた。
吐き気はあるもののこみ上げてくるほどではない。
忘れないようにと精悍な顔立ちをジッと眺めた。