第15章 雪原に立つ
異変に気付いてくれたのは秀吉さんだった。
秀吉「光秀、止まってくれ。舞!?大丈夫か?」
秀吉さんの手が頬を叩いた。
(やめて、眠たいの。さっき少し眠れって言ってくれたじゃない)
馬を降ろされて誰かの腕に支えられた。
(この香りは光秀さん…かな)
嗅覚はまだ働いているようで光秀さんの冴え冴えとした香りが鼻孔をくすぐる。
その些細な香りが少しだけ現実に引き戻してくれた。
光秀「まずいな。脈が弱い。小娘っ、起きろっ!」
光秀さんにまで頬を叩かれた。
(痛いはずなのに痛くないや…)
意識が浮いては沈む。死にそうなんだとわかっていても甘い誘いが体中に絡みついてどうにもならない。
グイっと体勢が変わり体を包んでいた布がとられた。
髪をかきあげられる感覚がしたかと思うと、うなじに鋭い痛みが走る。
「うっ」
ようやくそこで意識が浮き上がり目を開けた。
私を腕に抱き、見下ろしていたのは信長様だった。
信長「阿呆。いつまで寝ているつもりだ、起きろ」
そう言った信長様の唇に血が滲んでいる。
(あ…血が…)
言いたいのに口に力が入らなかった。
察しの良い信長様は私の視線に気が付き、それをペロリと舐めた。
信長「お前の血だ。また噛みつかれたくなければ目を開けていろ。いいな?」
眠りの誘惑は抗いがたいものがあるけれど、信長様にそう言われるとシッカリしなければと思う。
「はい」
精一杯に返事をすると信長様は満足そうに笑った。