第15章 雪原に立つ
「それでね、その文なんだけど、皆に読んで聞かせた後は燃やして欲しいの」
秀吉「はっ!?」
秀吉さんが大きな声を出したので前を行く光秀さんがチラリと振り返った。
秀吉さんは何でもないと手を上げると光秀さんは前を向いた。
小雪は牡丹雪へと変わりつつあって、光秀さんの白い着物が雪景色に紛れて輪郭がぼやけている。
(ひどい天気…)
秀吉「それで、なんでわざわざ書いた文を燃やせなんて言うんだ?」
秀吉さんは理解できないと首を傾げて聞いてきた。
「国の外に文字や物を残してはいけないことになってるの。
だから読んだら燃やして欲しい」
秀吉「わかった。文を俺の手で書き写すのは可能か?」
怪訝そうな顔は変わらないけど、秀吉さんは特に追及してこなかった。
「贈り物の説明を書いた部分くらいなら良いと思う。はぁ…」
体が辛くなってきて小さく息をついた。
秀吉「ああ、わかった。疲れただろう、少し眠れ」
些細な仕草だったのに秀吉さんは察してくれた。
「ありがとう。じゃあ少しだけ…」
それから四半刻ほどウトウトした頃だろうか、道が悪くなり、それと比例するように私の体調も悪くなった。
秀吉さんが慎重に馬を扱ってくれているのを感じていても、些細な振動に体が悲鳴をあげた。
温石がただの重たい石にように感じ、吹き付ける風に冷たさを感じなくなった。
(なんだろう…なにも…何も感じなくなって…き……た)
どこか深いところに誘われるような眠気だ。
身を委ねると悪阻(つわり)の気持ち悪さも、めまいも遠ざかっていくようだった。
甘い蜜の香りに誘われた蝶のように、私は楽になりたくて深い眠りの方へと引き寄せられた。