第15章 雪原に立つ
秀吉「…戻ってこい」
「え?」
吹雪で声が聞き取りづらい。
秀吉「戻ってこいって言ったんだ。体が良くなったら戻ってこい。
ここにはお前の居場所がある。病み上がりで城勤めがきつかったら俺の御殿に住み込んでも良い。
一人で抱え込んでないでもっと周りを頼れ」
支えてくれている腕に力が入るのを感じて目を閉じた。
(もうワームホールは開かない。でも…)
「ありがとう。戻って来られたら…戻ってきたいな」
秀吉「…ああ」
叶わない願いとは知りつつも本音がポロリとこぼれた。
無理やり連れてこられた安土城だったけど、いつの間にか安息の地となっていた。
「あのね、秀吉さんに頼みたい事があるんだけど、いい?」
秀吉「ん?なんだ?お前の頼みなら何でも聞いてやるぞ?」
甘やかしモードにスイッチが入り、秀吉さんは優しく肩を抱いてくれた。
「ありがとう。私が使わせてもらっていた部屋にね、皆へのプレゼントを置いてきたの。
それを配って欲しい。文も一緒に入れておいたから皆に読んで聞かせて欲しいな」
秀吉「ぷれ…?てなんだ?」
「あ、プレゼントは『贈り物』っていう意味だよ。ごめんね」
秀吉「こんな体で気遣いしなくて良かったんだぞ?」
「ううん。贈り物は体調を崩す前に殆ど出来上がっていたから無理はしてないよ。
ただ文を書くのが大変で…余裕が無かったから私が書きやすいように書いちゃったの。
とても読みにくいと思うけど、よろしくお願いします」
秀吉「わかった。舞は字が読めない、書けないって言ってたのに文を書けるようになったんだな」
『遠方に行った時に文を書いてもらいたかったな』と秀吉さんが寂しげに笑った。
「えーと、それは…」
崩し字が読めない、書けないのは今も変わらないのでなんと答えに迷う。
「文を見てくれたらわかるよ」
そう言うしかない。
(きっと秀吉さんは横書きで、しかも鉛筆で書かれた文に仰天するだろうけど仕方ないよね)
墨と水の匂いがダメになってしまったので仕方なく鉛筆という手段をとった。