第15章 雪原に立つ
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どこをどう進んでいるのかわからないままジッとしていると、秀吉さんが話しかけてきた。
秀吉「舞、この辺は安土城が一番良く見える場所だ。見納めしておくか?」
「うん」
秀吉さんは馬を止めてくれた。
目を開けてみると、小雪舞い散る中どっしりと佇む安土城が見えた。500年後には失われている姿をしっかりと目に焼き付ける。
「お城に来たばかりの頃、秀吉さんは怖かったな…」
ふと思い出してそう言うと秀吉さんが気まずそうにしている。
秀吉「あれはお前の正体が知れなかったからだな…」
「皆には分け隔てなく優しいのに、私にだけ辛くあたるから悲しかったなぁ」
秀吉「っ、すまなかったな」
秀吉さんは再び馬を動かしながら眉を八の字にして困っている。
少し苛めてみたら楽しくて笑ってしまった。
「でも今はお兄ちゃんみたい。不思議だね」
出会った頃は想像できないくらい仲良しになった。
それもこれも秀吉さんが私を信用してくれて、それまでの態度を改めて歩み寄ってくれたからだ。
簡単なことのようだけど、それをできる人はなかなか居ないと思う。
「私ね、一人っ子だったからずっとお兄ちゃんが欲しかったの。
ここに来て秀吉さんが妹のように可愛がってくれて本当に嬉しかった。ありがとう」
秀吉「俺もだ。家族と離れて久しいからな、お前みたいな妹ができて嬉しかったよ」
手綱を握っていなければ頭をヨシヨシと撫でられていたところだ。
「でも秀吉さんが実の兄だったら、私、お嫁に行けないかもなぁ」
秀吉「ん?なんでだ?」
「なんでって、お兄ちゃんが格好良すぎて、他の男の人なんて興味湧かないと思う」
秀吉さんの表情がピシリと固まり、直ぐに頬が赤らんだ。
秀吉「お前な~~~~、そういう事を簡単に言うもんじゃないぞ!?」
盛大に照れている顔が可愛い。
(謙信様に言ったら怒っていたけど、やっぱり男の人も可愛い時は可愛いよね)
いつも大人の余裕を漂わせている秀吉さんに一杯食わせるなんてなかなか難しいから、ちょっぴり嬉しい。