第15章 雪原に立つ
やがて早足で廊下を歩いてくる音が聞こえ、私達は体を離した。
光秀「『土産』と信長様より賜った懐剣はお前のおかしな袋に入れておくぞ」
そう言って光秀さんは櫛と懐剣を布に包んでバッグに入れてくれた。
表情も口調もいつもの光秀さんだ。
「ありがとうございます、光秀さん」
二人見つめ合って笑っていると広間に三成君が戻ってきた。
三成「舞様、気の利いたものをご用意できませんでしたが、こちらをお持ちください」
そう言って三成君は巻物を一つ開いて見せた。
三成「舞様の字の勉強にと商人から買っておいたものです。
しばらくは寝たきりの生活になるかと思いますので、字の勉強は無理でも絵を眺めるだけでも気晴らしになるかと」
わりと最近作られたものなのか紙の状態や絵の発色が良かった。
「わぁ、とっても綺麗だね。お城の書庫にあるものより色が鮮やか…。
ありがとう、体調が落ち着いたら読ませてもらうね」
お礼を言っていると広間の襖が開き、秀吉さんの家臣が現れた。
家臣「失礼致します。皆様、準備が整いましたので城門までおいでください」
心に冷たい風がすっと通った。
光秀さんと三成君が返事をすると家臣の方は去っていった。
三成「舞様、行きましょう。これはあなたの手荷物に入れておきますね」
「うん、ありがとう」
お別れが辛い。口角が下がって震えた。
光秀「できる限り静かに移動するが気分が悪くなったら遠慮なく言え」
そう言って光秀さんは私を抱いたまま静かに立ち上がった。
言葉通り光秀さんは本当に静かに歩いてくれて、後ろから三成君がバッグを持って言葉少なについてきた。