第2章 夜を忍ぶ
――――
――
それから数日後。
雪が振り出しそうなほどキンと冷えた夜。
私は自室で縫物をしていた。
流行り病の話を聞いてから城下に出るのを控え、常々作りたいと思っていたスポーツウェアを縫っている。
肩には綿入りの羽織をかけているにも関わらず、寒さで針を持つ手がかじかんだ。
武将くまたんの着物は針子部屋で皆の着物を作った時や、お直しの時に使用した布があまっていたのでそれを譲ってもらった。
順調に製作が進んでいるので、今夜はちょっとした息抜きだ。
(だってさ、着物だとストレッチとか筋トレができないんだもん)
何かするとすぐ『はしたない』と言われてしまうこの時代。
つつましく、おしとやかにと言われても、体がどんどんなまっていく感覚にあせってしまう。
(二の腕も太もももお腹も、ぜーんぶプヨプヨになっちゃう!)
そう思い、皆が寝静まった時間にコッソリ筋トレを始めたけど、やっぱり着物では無理があった。
開脚できないし、仰向けやうつ伏せなど体制を変えたい時に帯が邪魔になる。
寒い時期なら猶更身体を動かして筋肉をほぐしたい。
ということで、スポーツウェアをせっせと作り、たった今完成したところだ。
辺りはシンとしていて行灯の油が少なくなっている。
「子の刻くらいになっちゃったかな。でもせっかくだから着てみようっと」
伸縮性があるものや、吸湿速乾の生地は望めなかったので、現代のものとは大分違うけど、自由に手足を曲げ伸ばしできるだけでも断然着物よりも良い。
久しぶりに現代の下着と肌着を身につけ、その上からスポーツウェアを着てみる。
丁度黒い生地が手ごろだったので、上下とも黒にして現代っぽくフードもつけてみた。
「うーん、少し体にフィットしすぎかな。
でも部屋の外に出る訳じゃないし…まずまずの出来!」
意味もなくフードを被ってみる。
「部屋で使うからフードは要らなかったけど、なーんか付けたかったんだよね。ランニングウェアみたいになっちゃったな、ふふ。」
久しぶりの楽な恰好に嬉しくなる。
胸やお尻を包み込んでくれる下着の感触にも安心感を覚える。
「やっぱりこうでなくちゃ。もう遅いけどストレッチと筋トレやっちゃおう!」
そうしてあちこち曲げ伸ばしすること四半時。
天井から控えめにコンコンとノックする音が聞こえた。