第15章 雪原に立つ
光秀「小娘にしては考えていることを上手く隠しているな」
光秀さんが軽く笑った気配がした。
光秀「目を開けろ。お前が聞いて欲しくないというならもう探りはいれない」
優しい声色で乞われて瞼を持ち上げた。
吐き気やめまいをおこさないように、ゆっくりと。
「……」
目の前に、声と同じく優しい顔をした光秀さんがこちらを見下ろしていた。
いつも意地悪に細められる琥珀色の瞳は、今は穏やかさを湛えている。
光秀「今日はいつも以上に可愛いな。その化粧はお前の国のものか?」
「はい…」
ストレートに『可愛い』と言われ、頬に熱が集まった。
光秀「そのまつ毛はどのような手段でそうなっている?」
ビューラーで上げ、マスカラを付けたまつ毛をしげしげと見られる。
端正な顔立ちが近づいてきて内心穏やかでいられない。
「や、光秀さん。恥ずかしいです。
これはまつ毛を上にカールさせる道具を使うんです。
まつ毛の根元にゴムという物が当たるように挟む…感じなんですけど、説明が下手ですみません。
それでまつ毛を上げたあとに、まつ毛専用の墨のようなものを塗るんです」
『カール』とか『ゴム』とか、おそらくわからないだろうに光秀さんは『そうか』と聞いていた。
光秀「いつもより目が大きく、美しく見える。その頬紅も口紅もよく似合っている。
お前の国の着物を見させてもらっても良いか?ずっと触れているが変わった手触りだ」
「はい、どうぞ…?」
光秀さんの手が三成君の羽織を落とした。
長いまつ毛で彩られた光秀さんの瞳が洋服と、スカートから出ている私の足のつま先へと動く。
素材を確かめるように洋服の裾を手に取り、私に断りを入れてからストッキングにも触れた。
光秀「むくみを確かめるために触れた時にも思ったが、この素材はひどく薄いな。
素肌が透けるくらい薄くつくられたこれは、肌を隠すためや防寒のためというより足を綺麗に見せるためのものか?」
この時代の人が、まさかその考えにいきつくと思っていなかったのでびっくりした。
(光秀さんって本当に頭の回転が速いんだな)
感心してしまう。