第15章 雪原に立つ
光秀「小娘…」
呼びかけられただけで何を言われるかわかった。
(やっぱり光秀さんは誤魔化せなかったか…)
「はい、なんでしょうか?」
目を閉じた状態で返事をした。
光秀「お前は孕んでいるのをわかっていて、何故まわりの者に打ち明けなかった?
出血を月の障りと見せかけてまで隠し通したのは何故だ?
女中が月の障りと疑わないほどには出血も日にちもあったのであれば、子の命が危ういとは考えなかったのか。
下手をすればお前まで命を落とすのだぞ」
きっと目を開ければどこまでも見透かす目で私を見ているはずだ。
「それは…言えません」
さらに問い詰められるかと思ったのに光秀さんはそうはしなかった。
光秀「お前には最低限の血や水が足りていない。
殆どの腑が弱りきっていて不用なものを外に出す力さえ失っている。
その息切れや動悸はそのせいだ。今の状態では母子ともに命が危うい。
国へ帰ったら直ちに治療しろ、いいか?」
相手は誰だとか、どうしてと追及されると身構えたのに、光秀さんがくれたのは的確な事実と治療をすすめる言葉だった。
短時間にそこまで把握した光秀さんにただ驚くばかりだ。
「わかりました……光秀さんはまるでお医者様みたいですね」
光秀さんの纏う空気が、ふっと緩んだ。
光秀「昔取った杵柄だ。俺が安土を留守にしていなければここまで酷くはならなかっただろうに…すまなかったな」
常より低い声で謝られ、かぶりを振った。
「光秀さんが謝る必要なんてどこにもないです。悪いのは全部私なんです。
私が責任をもたなきゃいけないんです」
光秀「馬鹿者。子のことは父親と二人で責任を負っていくものだろう?
何故一人で背負おうとしている」
父親と聞いて謙信様の顔が浮かび、胸がギリっと締め付けられた。
伝える手段がないまま時が過ぎ、身体は弱りワームホールで現代へ帰ろうとしている。
そして謙信様の心を守るため、妊娠を知らせない決心をしてここへ来た。
…自分でそう判断したのなら責任を持つのは私一人でいい。
「本当は…」
(謙信様と共にありたかった……)
ぽろっとこぼれそうになった言葉に口を噤む。
ここまできてしまったならもう叶わない想いだ。