第15章 雪原に立つ
信長「舞よ。貴様は俺の験担ぎの女として傍においたが、途中でそれを放棄して帰るとはいかがなものか」
秀吉「信長様っ!」
あれほど『信長様の言う事は絶対だ』と口酸っぱく言っていた秀吉さんが、信長様に抗議の声をあげた。
信長「秀吉、静かにしていろ」
一言で秀吉さんを黙らせて信長様は私へと目を向けた。
信長「いいか、よく聞け。どこに居ようと、その命尽きる瞬間までお前は俺のものだ。
安土の姫として俺に幸運を呼び込め」
戦場でよく見る不敵な笑みが浮かび、赤い目は力強く煌めいた。
(今…『どこに居ようと』って言ってくださった…?)
説得には時間がかかると思っていたのに、信じられない思いで見返す。
信長様は織田の家紋がついた懐剣を手に持ち、私へと差し出した。
信長「手に取れ」
泣いちゃいけないと思うのに大粒の涙がポロポロと落ちた。
三成「舞様……」
私の手を握ってくれていた三成君が手を離してくれた。
「~~~っ」
力の入らない手で懐剣へと手を伸ばした。
その動きだけでもいっぱいいっぱいで手が震えた。
光秀さんや秀吉さん、三成君は黙って見守っている。
「っあ!」
懐剣に届いたその手を、上から大きな手が覆った。
大きくゴツゴツして力強い…信長様の手だ。
信長「俺が与えた仕事を全うしてみせよ。簡単に死ぬなど許さぬからな?
命尽きるまで、お前は安土の姫だ」
「は、はい。ありがとう、ございま、すっ」
胸がいっぱいでそれ以上何も言えなかった。
懐剣を胸に抱きしめると、皆が優しく笑ってくれた。