第15章 雪原に立つ
光秀「月の障りは?」
秀吉「っ!お前なぁ、もっと包み隠して聞けよ。舞が恥ずかしい思いするだろうが!
……女中の話では先月はきていたそうだ」
光秀さんがした質問にドキッとして、誤魔化しておいて良かったと胸をなでおろす。
光秀「それはいつ頃の話だ?如月も終わりだが今月はきたか?」
秀吉さんが答えに詰まったのを感じて、私は目を閉じたまま答えた。
光秀さんと目を合わせてしまうと気づかれそうなので故意に目を開けなかった。
「先月の中頃です。体調を崩して飲まず食わずになったせいなのか、今月はまだです」
光秀「そうか」
頭を優しく撫でられて隠し通せたとホッとする。
光秀「なんの病かわからんな。御屋形様…いかがいたしましょう」
目を閉じていた私は、光秀さんが信長様に意味ありげな視線を送ったのに気づかなかった。
光秀さんの手が不意に羽織の下に伸び、お腹に置かれたのでピクリと反応した。
「んっ」
反射的に身をよじろうとしたけれど、光秀さんの手から伝わってきた温もりの心地良さに大人しく身を委ねた。
(この手は偶然ここにおかれたの?それとも気づかれた?)
気になったけど黙っているしかない。
信長「舞、お前は俺の持ち物だ。
勝手に国へ帰るなどと俺が許すと思うか?」
威厳のある声色にそっと目を開けた。
(そう言われると思ってた)
予想はしていたけど信長様を説得できる知恵はない。ただひたすらに懇願するしかない。
「信長様、申し訳ありません。どうか私を助けると思ってお許しくださいませんか?」
信長「嫌だと言ったらどうする?お前は一度医師に診てもらっただけで治療は頑なに断り続けた。
今からでも名医を呼び寄せ治療しても遅くはないだろう?
それともここを去りたい理由が何かあるのか?」
「っ!いいえ。そんなことは…っう」
気が高ぶらせてしまったせいか強烈に吐き気を感じて身をよじった。
ポケットから手ぬぐいを出して口を押さえる。
この場を汚してしまう心配にあせってしまったけれど、よく考えれば吐くモノはそう多くない。
手ぬぐいについたのはわずかな胃液の黄色と、真っ赤な血だった。