第15章 雪原に立つ
三成「舞様がおっしゃるには国へ帰ればこの不調を治せる可能性があるそうです。
このままここに留まれば命尽きるだろう、と。
詳しくは聞いておりませんが国へ帰るには特殊な手段を用いらなければならないそうで、それも今日を逃せば二度と帰る事は叶わないとのことです」
秀吉「だが不調は体質のようなもので薬も何もないっていう話じゃなかったか?」
この問いには私が答えなければと気持ちを奮い立たせてた。
「この不調を治すことはできないけど、食べられない、飲めない状態の時に必要な栄養や水分を補う方法があるの。
私の国は医学が進んでいるんです。ここにはない薬や技術があり、こんな状態でも帰れたなら助かるかもしれないんです」
説明している間も気持ち悪さで息が乱れた。
信長「南蛮の医学が少しずつ入りこんでいるこの安土よりも医学が進んでいるだと?」
信長様の問いに『はい』と答えたいのに乱れた呼吸が邪魔をして、頷くしかなかった。
光秀「三成、舞をこちらへ」
三成「っ、はい」
三成君は膝立ちになって光秀さんにずり寄り、私を引き渡した。
手が離れる瞬間に三成君の表情が寂しげに歪んだ。
三成君に運んでくれた礼も込めてニコリと微笑んで見せた。
そのまま視線をあげると、光秀さんが見定めるようにこちらを伺っていた。
胡坐をかいた上に私を横抱きして、空いている片手で下瞼をめくった。
形の良い眉が寄せられ、琥珀色の瞳に険しい光が浮かんだ。
光秀「小娘、少しでいい、口を開けろ。ああ、それで良い。
今度は舌を口蓋につけて裏を見せろ」
有無を言わせない真剣な声色に言われた通りにする。
繊細そうな指先が脈をとり体温を確かめているのを感じ、身のすくむ思いだった。
(光秀さん、まるでお医者様みたい。バレない、よね?)
光秀「いつから体調を崩した?」
そう言いながら光秀さんは浮腫んでいるふくらはぎに触れた。
整った顔立ちがますます厳しいものになる。
秀吉「小正月過ぎた頃から針子の仕事中に眩暈を…」
私の代わりに秀吉さんが経緯を説明していく。
光秀さんは気にかかることがあるとその都度秀吉さんに問いかけた。
その間はあやすように手を握っていてくれて、私はすっかり身を委ね目を閉じていた。