第15章 雪原に立つ
三成「そのような酔狂な方がそうそう居るとは思えませんが、舞様がそうおっしゃるのであれば…」
力なく微笑んだ三成君は痛々しかった。
きっと酷く落ち込んでいるだろうに、それでも笑ってくれて涙が出そうになった。
三成「長くお引止めしてしまいました。信長様のところへお連れ致します。
抱き上げてもよろしいですか?」
「うん。申し訳ないんだけど歩けなさそうだからお願いします」
二人同時にズズッと鼻をすすったので顔を見合わせた。
三成「胸が痛いのも、鼻をすするのも一緒ですね」
三成君がクスっと笑い、私の膝裏と背中に腕を回して抱き上げてくれた。
「ふ、ふふっ」
おかしくなって久しぶりに声を出して笑った。
三成君と話していると心が軽い。
三成「お美しいです」
熱を孕んだ静かな声に、ハッとして三成君を見た。
三成「今日のあなたはとても綺麗です。
素顔のように見えてそうではない肌も、複雑な色合いの目元も、艶やかな唇も、花のような笑顔も」
目の前の姿を刻み付けるように、三成君は見つめてきた。
私も私でそんな三成君を忘れないように見つめ返した。
抱き上げている腕に力がはいり、私の体は三成君の体にピタリと押し付けられた。
苦しさを感じて目を閉じると、頬に温かいものが二度触れた。
左頬と右頬と一回ずつだ。
びっくりして目を開けると、そこにはいつもの天使のような笑顔が見えた。
「み、三成君!?」
三成「南蛮の使者が言っていました。あちらでは挨拶の際、軽く抱き合い『きす』をすると。
………お別れの挨拶です」
ニコニコと眩しい笑みの中に、切ない想いが見え隠れして胸が締め付けられた。
「あ、ありがとう。三成君」
頬の赤みを隠すために三成君の胸に顔を寄せた。
三成「では参りますね」
三成君は静かに歩みを進め、大広間へと連れて行ってくれた。