第15章 雪原に立つ
三成「何をおっしゃるのですか。あなたは信長様の命を救った方です。
この城に来てからも影日向尽くしてくださいました。
そんなあなたが謙遜する必要はどこにもありません」
「ううん、本当に私なんか…」
真実を話せば安土の裏切り者と呼ばれる身だ。
こうして心配されることさえ罪悪感に苛まれる。
「うっ」
三成「舞様、大丈夫ですか!?」
強い吐き気を我慢するために目をギュッとつむり胸を押さえた。
「…っ、横になりたい」
必死に訴えると三成君は近くの空き部屋に運び込んでくれた。
畳の上に降ろされてすぐに体を丸く縮めると、三成君は羽織を脱いでかけてくれた。
背にあててくれた手の温もりを感じながら呼吸を繰り返した。
「ありがとう、三成君。すこし落ち着いた」
三成「舞様。先ほどの話ですが、どうかここで治療することを考えて頂けませんか?
手を尽くし快方の兆しがなければ国へ帰るというのでは駄目でしょうか?」
私は目をつむったままで答えた。
「ううん、治療はしない…。
それに国へ帰るには特殊な手段が必要で、今日を逃してしまえばもう二度と国へ帰れないの」
目をつむったままでも三成君が息を呑んだのが分かった。
三成「それは言い換えると、舞様が国へ帰ってしまったら、もう二度とお会いできないということですか?」
悪阻とは違う胸苦しさに襲われる。
この時代で出会った人達の顔が思い浮かび、様々な思いを飲み込んで頷いた。
「……うん」
三成「まさか、そのような……」
三成君は余程ショックを受けたのか言葉を失くした。
「私の国はここより医学が進んでいるの。
ここに残って治療法を探すより国へ帰った方が生きられる可能性が高いの。
だから帰らせて欲しい。お願い」
不意に三成君に手を取られた。大きくてしっかりとした手の感触に戸惑う。
その手は少し震えているようで、手を握る力は痛いくらいに強かった。