第14章 未来を変える種
信長「俺ならばその時点で一番才のある男に子を頼むであろうな」
秀吉「それでは俺と同じでは……?」
信長「違うな。貴様は親族や家臣と申したであろう。俺は才ある男に頼み、こう言う。
『貴様の目から見て、子に才があったなら後継ぎとして育て、平凡な才であったなら、貴様自身が俺の跡を継ぐとよい』とな」
秀吉さんは呆気にとられた顔をして、声も出せないようだった。
信長「家臣にとっても子にとっても益になる話であろう?」
ニヤリと笑う信長様は自信ありげだ。
秀吉「で、ですがそれでは天下人として織田家が君臨できなくなるのでは…」
鉄扇が開かれ、すぐにパチンと音をたてて閉じられた。
信長「そんなものに興味はない」
秀吉「は!?」
信長「天下人はその時その時、力あるものが務めれば良い。
日ノ本をまとめるのは並大抵の人間にできるものではない。
俺と血が繋がっているから、織田の人間だからという理由でなるものではない」
(……!信長様…)
これ以上ないほど感動に震えた。
信長「下剋上の世だ。器をもたない者が上にたてば、有能な人間あるいは不満をもった輩が必ず追い落とす。
だから子を必ず後継ぎになどと言わず、いかようにもできるよう、選択を残しておくのが死に行く者ができることではないか。
家を守り、妻や子を守りたいのであればな。ただし前もって周知させておかねば、いざという時に反感を買う恐れはあるが」
秀吉「の、信長様がそのようにお考えだとは露とも知らず」
想像をはるかに上回っていたのだろう、秀吉さんはしどろもどろに言葉を濁らせた。
信長様はふんと鼻で笑うと、ずっと黙ったまま見守っていた私へと視線をうつした。
信長「このような『仮定の話』など考えたこともなかったからな。
俺の考えは、今の今出たばかりだ。お前達しか知らん。
なかなかに面白かったぞ、舞」
「こちらこそ、ありがとう……ございます。とても勉強になりました」