第14章 未来を変える種
秀吉「場所を改めますからお覚悟を」
信長「ふっ、いかようにでもするが良い。
しかし随分とおかしな『仮定の話』をしておったな」
興がひいたと言わんばかりに信長様の赤い瞳が鋭く煌めいた。
心の底まで切り込んできて、そんなはずないのに信長様に思惑を全て知られるような居心地が悪さを覚えた。
信長「だがな、秀吉。豊臣の姓を守り、家族に安寧な暮らしをというなら……
一人残す子を跡取りに、などと安易に思わぬほうが良いぞ」
「っ!!」
秀吉「…と言いますと?」
言葉が出ない私のかわりに、秀吉さんが真意を聞こうとしている。
信長「阿呆。だから先程愚かだといったのだ。
家の名を継ぐ才も、度胸もないような人間がその座に座り、家ごとつぶれたのを貴様とて何度も耳にしておろう?
子が小さいならば後継ぎの器の有無など到底予測できない。
それなのに後継ぎとして頼むと言ってしまえば、家臣達はどれほどの無能な人間だろうと、その人間を上へ押し上げてやらねばなるまい」
いつの間にか取り出した鉄扇を膝の上でトントンとしながら、信長様は秀吉さんを見据えた。
信長「自分の子であれば大丈夫だと奢る輩は今までの世でも必ずあった。
だが俺は自分の子が他より秀でているかどうかなど知らん。
平々凡々の人間やも知れぬし、俺以上にうつけた人間になるやも知れん。
子が小さいうちは誰にもわからんものだ」
秀吉「では信長様ならいかがするのですか?」
秀吉さんの表情が至極真剣なものになっていて、私は二人の会話に入る事ができず固唾をのんで見守っていた。
信長様の言葉が、秀吉さんの未来を変えてくれるかもしれない。
そんな予感に胸がざわついた。