第14章 未来を変える種
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「げほっ、げほっ」
日付が変わったばかりの時分、吐き気で目を覚まし嘔吐した。
隣室に控えていた女中さんがすぐに来て部屋に灯りをつけ、汚れた手ぬぐいを交換してくれる。
吐くものは胃液だけ、それも少量なので手ぬぐいで事足りた。
(吐いたそばから気持ち悪い…どうにかならないかな)
嘔吐で激しい動悸がおこり、それもまた悪心に拍車をかける。
渡された濡れた手ぬぐいで口元を綺麗にして息を吐いた。
「はぁ…」
口の中がべたべたして気持ちが悪い。
以前よりとろみのある唾液があとからあとから湧き出してきて、飲み込むのさえ労力が必要だった。
(唾液を飲み込むのに神経を使うなんて…)
飲み込まず吐き出したいけど、そうすれば水を飲めない私はより脱水症状が酷くなるだろうと我慢して飲み込んでいた。
当たり前にできていたことができなくなり、元気だった頃の身体が恋しくて仕方がなかった。
秀吉「舞、大丈夫か?」
遠慮がちに襖の向こうから声をかけられた。
「秀吉さん?」
こんな夜中に一体どうしたんだろう。
秀吉さんは女中さんに人払いを命じて部屋の中に入ってきた。
秀吉「信長様に仕事の報告をしていて遅くなってな、御殿に帰る前にお前の寝顔を見ていこうと寄ったんだ」
夜更けにごめんな、と言って秀吉さんが謝った。
「ううん、いいよ。一日中寝ているから夜中や早朝に目を覚ましてもそんなに眠くないの。
それより秀吉さんの方こそお仕事で疲れているでしょう?それなのに様子を見に来てくれてありがとう」
お礼を言うと秀吉さんは穏やかに微笑んだ。
部屋の灯りを反射して瞳の色がはちみつ色で、とても綺麗だ。
秀吉「病や怪我で身体を弱らせると不安や恐怖で心まで病むものだが、舞の心は変わらないな。
辛いだろうに、お前がこんなに強いって知らなかったよ」
隙間風で部屋の灯りがチラチラと揺れると、秀吉さんの瞳も揺れて見えた。