第14章 未来を変える種
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日に何度も嘔吐する日が続き、喉が傷ついて嘔吐の度に痛みと出血が伴った。
そんな中、弱った身体にまた新たな変調が現れた。
(なんか苦しい)
酸素を取り入れる機能が空回りしているように、呼吸を繰り返しているのに息苦しさが続いた。
はあはあと肩を上下させながら呼吸していると、小刻みに震える指先が目に入った。
「………」
脆くなった爪が数か所割れている。
(貧血…なんだろうな。当たり前だよね、栄養失調だろうし)
女中さんや三成君と会話していても気が遠くなる事があった。
下からの出血は今でも続いているし、食事を摂らなくなって久しい。
緩慢な動きで手を握って開く、を繰り返す。
(まだ動く…よね)
身体の限界がきているのはわかっていた。
謙信様を待っていては間に合わないかもしれない。
間に合わない、ということは死ぬということだ。
「……」
カサカサに乾いた唇を噛んだ。
(私は死なないって約束した)
隠れ家の宿で想いを交わした後、謙信様を残して死なないと約束した。
いくつか交わした約束の中でも最も重要なものだ。
私が死ねば謙信様は『俺に関わったから…』と自分を責め、固く心を閉ざすかもしれない。
今度こそ誰にも心許さず戦場を駆け巡り、戦の中で死を望むだろう。
そんな未来は想像するだけで嫌だ。
(謙信様の心と命を守らなきゃ)
拳を作ってギュッと力をこめる。
その手を見つめながら生きるためにどうすれば良いか考えた。
安土の皆に正直に話すという選択肢はなかった。
今更それをするなら、妊娠がわかった時点で助けを求めれば良かったんだから。