第14章 未来を変える種
こんな食生活じゃいけないことくらいわかっている。
本来なら子供の成長のためにと食べる時期だろうに、それができない自分がやるせない。
女中さんが塩と砂糖が入った小皿を二つ持ってきて、湯呑の中にはお水が少しだけ入っていた。
(なんでもいい、口にできるものを少しでもいいから取り入れないと…)
震える手を伸ばし、指の先に塩をつけて一度だけ舐める。
砂糖も同じく舐め、最後に湯呑を持った。
水の匂いが鼻について顔をしかめそうになったけれど、女中さんがジッと見ていたので平静を装った。
(水の匂いが嫌なんて言ったらばれちゃう。しっかりしなきゃ)
息を止め、数滴分にしかならないような量の水を口に含んだ。
「……っ」
鼻に抜ける水の匂い、口の中で唾液と混ざりあってとろみをもった感覚に吐き気がこみあげた。
(水分もとらなきゃ)
あがってきそうな胃液を、強引に水を飲みこんで抑え込む。
水を拒否するように胃が震え、外に吐き出そうとしている。
背中を丸め、手ぬぐいで口を覆っていると女中さんが背中に手をあててくれた。
以前さすられて吐いてしまったことがあったせいか、手をあててくるだけだ。
女中「姫様。しっかりなさってください」
声色から、とても心配してくれるのが伝わってくる。
(嘘をついている私は優しくしてもらう資格なんてないのに…)
胸がずきんと痛んだ瞬間、私は全て吐き出してしまった…。