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☆一夜の夢☆〈イケメン戦国 上杉謙信〉

第14章 未来を変える種


(姫目線)

「すみません、如月(2月)に入ってどのくらいですか?」


雪がしんしんと降る静かな朝。

女中さんが入ってきた拍子に空気がヒヤリと動いて目を覚ました。

目を閉じたまま、今日が何日か確認した。

悪阻が酷くなってからその日その日を過ごすのが精いっぱいで、今日がいつなのかわからなくなってしまった。


女中「如月に入って10日たちました。
 暖かくなるのが待ち遠しいですね、姫様」


暖かくなれば体調が戻るという話を信じている女中さんが、そう言ってくれた。


「ありがとう」


(ふた月って言ってたから謙信様が来るのはもう少し先かな…)


朝から晩まで悪阻に苦しんでいた。

寝ていても眠りが浅くなったタイミングで吐き気を感じてしまい、安らげる時がない。

大きく息を吸おうとしたり、寝返りを打とうと体に力を入れるだけで吐いてしまう。
食べ物は口にできなくなり、塩と砂糖をほんの少量舐めて水を飲んで過ごした。


(まさか水も駄目になっちゃうなんて…)


身体が弱っていくのを感じているのに、軒猿の誰とも接触できず助けを求められずにいた。

いっそのこと謙信様の子だということは隠して、妊娠を告げてしまおうかと何度も思ったけど、そんな不義理はできないと、必死に思いとどまっている。

お世話になった人達にこれ以上は嘘をつきたくない。

眩暈が始まってからは次々と襲ってくる体調不良にに翻弄されて、永遠の時に身を置いているようだった。


(悪阻、酷い方なのかな。これが普通っていうか、よくあることなのかな)


悪阻の軽い重いの知識はあまりなくて、誰かに聞いてみたくとも聞けるはずもなく、漠然とした不安ばかりが常にあった。

一人で歩く、身体を起こす、湯浴みする、歯を磨く。

そんな当たり前な事がひとつ、またひとつ、できなくなってきていた。


女中「姫様、何か食べたいものはございますか?」

「いいえ、何も。塩とお砂糖をお願いします」

女中「それだけでは…。果物などはいかがですか?」

「いいえ、本当に塩と砂糖だけで…」


嗅覚が異常に鋭くなり胃のむかつきは酷くて何も口にできなくなってしまった。


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