第14章 未来を変える種
信玄「待て、安土には行くなよ。お前にはやるべきことがあるだろう。
放り出して行ってしまえば急ぎで事を進めていた意味がなくなるだろう?」
謙信「……っ、わかっている」
信玄「姫のことは心配だが俺の方でも手を回している。
そのうち手掛かりをつかんでくるはずだ」
謙信の乱れた心を落ち着けるように信玄が背中をバシッと叩いた。
謙信「……何をする」
しかめっ面で文句をいいながら、落ち着きを取り戻した謙信が再び庭に目をやった。
信玄はつられるように庭を眺め、謙信の横に胡坐をかいた。
信玄「しかし謙信が家臣達と意見を取り交わすなんて今までなかっただろう?珍しいこともあるものだな。
鶴の一声で決めちまうことが多いお前が辛抱強く意見のやりとりをしているから幸も驚いてたよ」
謙信「家臣達が不満を腹に抱えたまま舞を迎え、危害を加えるようなことはあってはならんことだ。
良くも悪くもやつらの意見を聞き、説得せねばならん」
庭に積もった雪に溶け込むように、冬毛になった白いウサギ達が跳ねている。
その様子を何とはなしに見つめ、謙信は息を吐いた。
白く曇った吐息が空に溶けて消えた。
信玄「そうか…」
伊勢姫の事を知っている信玄は短くそう答えただけだった。