第14章 未来を変える種
―それから数日後
連日うんざりするほど雪を降らせていた雪雲が去り、久々に澄み渡った空が広がったある日、謙信は廊下でぼんやりと雪景色を眺めていた。
安土に潜んでいる牧から『引き続き厳重警戒で城に入れず』という文が手に握られていた。
(信長は何を警戒しているのだ…)
天井裏に常に人員を配置するなど余程の事があったに違いない。
牧の報告では床下も同じ状態だという。
舞に危害が及ぶような出来事があったのだろうか。
敵と通じたのを悟られたか。
なんの情報もなく苛立ちが募った。
(あのままさらってきてしまえば…)
舞を思ってこそ安土に置いてきたのだが、こういう事態になってしまうとあの時の判断が間違っていたのではと気持ちが沈む。
(俺と連絡がとれず不安であろうな。すまない、舞)
信玄「………予想通りの憂い顔だな、謙信」
謙信の思考が一気に現実へ戻された。
じろりと睨むと冬だというのに着物を着流した信玄が立っていた。
謙信「病人ならそれなりの格好をしたらどうだ」
信玄「ん?どうも着物をきっちり着るのは好きじゃないんだよな。
それより姫が軟禁されているそうだな」
謙信「っ!」
(軟禁!?)
姿を見なくなったという報告はあったが軟禁されているというのは聞いていない。
謙信は勢いよく信玄をふり仰いだ。
謙信「……三つ者からの報告か?」
信玄「ああ。だがはっきりとはわからない。
命じられて部屋から出られないのか、はたまた他の理由で部屋を出られないのか…。
豊臣や石田が足繁く通う様子から、部屋に居るのは間違いないそうだ」
謙信「確定してもいないのに軟禁などと言うな」
そう言いながらも謙信の心に黒い炎が燃え上がった。
もし軟禁が事実なら命じたのは十中八九信長だろう。
(あの女を閉じ込めて良いのは俺だけだというのに)
唯一無二の女を他の男が軟禁しているかもしれない。
想像の域を超えていないというのに居てもたっても居られなくなり、今すぐ安土へ向かいたくなった。